ポンコツ金融ウーマンの本棚。

読んだ本や思考の記録を綴っていくブログです

ブックレビュー(7)『読まずに済ませる読書術』ー完璧主義から脱却しよう!

皆さんは、読書に対して苦手意識はないだろうか。本は初めから終わりまで最後まで読まなければならず、内容もしっかりと理解すべきもの。そんな風に思っている人はいないだろうか。以前、自分も読書へのこうした固定観念から、本は好きでありながら読むことにどこか億劫になっていた一人だ。しかし、本書は読書への難しさや苦手意識を抱いている人に「本はもっと気軽に手に取れるもの」と思考の転換を促してくれる。

 

 

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『読まずにすませる読書術 京大・鎌田流「超」理系的技法』鎌田浩毅(SB新書)

 

「本は最後まで読まなくていい」

まず初めに著者が提唱するのは「本は最後まで読まなくていい」ということ。これには少なからず驚く人もいるのではないか。筆者いわく、最後まで読みきらなくてはいけない、という意識が読書に対して疲れを引き起こし、加えてどの本も最後まで読まなければいけないと思っていると、読める本の数は限られてしまう。そもそも読書は、自分の愉しみのため、その時の自分に必要なことを得るためにするのだから、「本を読むこと」が目的となってしまうとそれは無駄な読書が増えていくことにつながりかねないという。

 

 

「『音楽的読書』から『絵画的読書』へ」

では具体的にどう読んでいけばいいのか。著者は「絵画的な読書」を提唱している。これは、美術館で展示されている絵画をどの作品から見ても、見ない作品があっても、鑑賞の仕方はそれぞれ自由なように、読書も今の自分に必要な箇所、関心のあるところだけを読んで飛ばし読みをする方法だという。筆者は、この方法を取り入れると本を「読む」ものから「見る」ものへと変えることが可能だと述べる。

 

「本を見る」とはどういうことかと言えば、目次を見て、次に読みたい章を開けて中見出しを見て、読みたいところだけを読む。あるいは中見出しをざっとブラウズして、ぱっと目についたものに着目し、前後の数行だけ読むというスタイルです。                  (p. 23)

 

この「見る」 読み方により、最後まで読破しなくても自分の読みたい箇所に早く到達できるという。

 

一方で「音楽的な読書」は、音楽を聴くように、初めから終わりまで順番に読んでいくことだと述べ、例えば小説は、「音楽的な読書」が適しているという。物語の連続性が大切で、最初から読んでいかなければその世界観に浸るのが難しくなるからだ。

 

読む本のジャンルによってこの2つの読み方を使い分けることを著者は推奨している。今まで本を頭から全部読んでいた人にとっては、読み方を本に合わせて変えていくことで、より多くの本に触れられるようになるはずだ。

 

「いかに読まないか」への転換

最後に、著者は読書から得たことを、自分なりにカスタマイズしてこそ身につくという自論を紹介している。カスタマイズは、それぞれの個性で作り出されていくものであり、読書術も、8割は誰かの良い点を取り入れ、2割は自分の感覚を大事にすべきだというのだ。自らの直感によりカスタマイズを行うことで、自分らしい読書スタイルができ、完璧主義や見栄による無駄な読書が減っていくという。

 

本を読むことは、この先ますます重要になる。予測の出来ない未来が待っている世界で、本により自分の世界を広げていくことは絶対に必要だと、私は思う。だからこそ、各自がそれぞれのやり方を見つけ、ちょうど良い距離感で本と接していくことが肝心だ。本書は、シンプルな主張の中にも多くの気づきを与えてくれる。読書との向き合い方を考えるのにおすすめの一冊だ。

 

 

ブックレビュー(6)『会社を使い倒せ!』ーアクションを起こそう、自分から!

「会社を使い倒す」。前からずっと、もっと、自分はそうしたいと思っていた。だからこの言葉と、自分の感じていたことがぴたりと合った感覚がして、たまたまウェブで見かけたこの本をすぐに購入した。本を手に取りパラパラとめくると、文章にちりばめられた著者の使う言葉が不思議と自分に馴染む感覚があり、積ん読本の数々を差し置いて早速読み始めた。

 

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『会社を使い倒せ!』小野直紀(小学館集英社プロダクション

 

著者は、日本を代表する広告会社、博報堂に入社し、社内でmonomというプロダクト・イノベーション・チームを設立、その代表を務めている。広告会社は本来、言わずもがなクライアントありきのビジネスモデル。通常、自らモノづくりはしない。しかし、著者はあえて広告会社がモノづくりをするという、異質なものの掛け合わせをすることにより、新しい価値を生み出そうと挑戦している。

 

自らのキャリアも異質なものの掛け合わせだった、と主張する著者は、「今いる会社で自分のやりたいことができない」と感じている人こそ、異質なものを掛け合わせるチャンスだと述べる。自分の本当にやりたいことと、会社を掛け合わせる。そこに、新しい可能性が生まれる。

 

転職や起業という選択肢もあるなかで、会社に残り会社を使い倒す、つまり会社の人やネットワーク、資金等を前向きに利用することで、自分のやりたいことを実現する選択肢も知ってほしい、と説く。

 

本書は、大きく2部構成となっている。STAGE 1では、著者がどのようにやりたいことを見つけるに至ったかが述べられている。著者ははじめから博報堂でモノづくりがしたいと考えていたのではなく、様々なプロセスを経て本気でやりたいことを見つけたのだという。時間をかけてやりたいことを見つけた著者のキャリアは、「やりたいことが見つからない、わからない」と悩む多くの人を励ましてくれるかもしれない。続くSTAGE 2では、それをいかに会社というリソースを使い実現していったかが、具体的なプロジェクト例とともに紹介されている。リスクを取りながらも会社と徹底的に向き合うことを勧める著者のプロセスは、参考になる点が多い。

 

何か仕事に対してモヤモヤを抱えつつも、まだまだ社内でやるべきこと、できることが残されていると感じている人には、おすすめの書だ。私自身も、今の環境でまだまだ挑戦し続けていこうと感じさせられた。折にふれて読み返したくなる、ビタミン剤のような本だ。

 

 

 

 

 

 

 

ブックレビュー(5)『NO HARD WORK! 無駄ゼロで結果を出すぼくらの働き方』ー穏やかに働き続けるために、できること。

3月も半ば。残業の日々が続き、せわしなく仕事に追われ、「早くこの状況から解放されたい!」と思っている方も多いかもしれない。

 

今日ご紹介する本は、そんな思いを抱えている人にはうってつけかもしれない。世界的なソフトウェア開発会社、「ベースキャンプ」の経営者による仕事論が紹介されている。仕事論の本は数多く出版されているが、本書、つまり著者の会社の面白いところは、大抵の会社は選ばない選択肢をあえて取りにいく点だ。「多くの会社がそうしているから自分達もそうする」ではなく、仕事というものに真摯に向き合い、「こうした方が良い」という答えを選び取っているように感じられた。

 

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『NO HARD WORK! 無駄ゼロで結果を出すぼくらの働き方』ジェイソン・フリード/デイヴィッド・ハイネマイヤー・ハンソン(早川書房



本書では、「穏やか(カーム)」がキーワードとなっている。「クレイジー」(ここでは著者は、クレイジーという言葉について人の状態ではなく状況のことを指している)に働くことをやめ、「穏やか(カーム)」に働こう、そして結果を出そう、と説いている。

 

「がんばりすぎる」のをやめよう

人々が「クレイジー」な状況に置かれてしまう原因の一つに、成功するための並々ならぬ努力を信奉するメッセージが世間に溢れすぎていることが挙げられるかもしれない。

 

苦しみながらも仕事をし続け、頑張る。でも大半の人はその努力が報われずに、疲れ果て、燃え尽きてしまう。時には身体も壊してしまう。しかし、人間の経験はいつでも限界まで頑張る以上の価値があり、おまけに14時間以上働くと創造性や面白いアイデアが浮かぶ妨げとなるから、「がんばれ」と言うのは助言としても不適切なのだ、と著者は言う。

 

だからこそ「穏やか(カーム)」に働こう

 

毎日きちんと働いても、長時間働きすぎない。自分の身体を大切にしていいし、ゆっくり映画を見たっていい。時にはちゃんとした料理を作ってもいいし、散歩に出かけるのだっていい。著者は、時々まったく普通の人になっても十分成功は出来るのだと主張している。

 

穏やか(カーム)な働き方に近づけることは、私たちの働き方はもちろん、自分の時間の使い方を見直す有効な手段ともなる。

 

ここで、「カーム」についてご紹介しよう。

 

カームとは、人びとの時間と集中力を守ること。

カームとは、一週間あたりの労働時間を約四〇時間におさめること。

カームとは、現実的な見込みを立てること。

カームとは、充分な休日があること。

カームは、比較的小さい。

カームは、くっきりみえる境界線。

カームは、会議を最後の手段とする。

カームは、まずはメールなどの受動的なコミュニケーション・ツールで、その次にリアルタイムでコミュニケーションを取ること。

カームとは、みんなが独立していて、相互依存が少ないこと。

カームとは、息の長い持続可能な営み。

カームは、採算性が高い。

                              (p. 19)

 

 

本書では、この「カーム」の概念に基づき、様々な仕事論が紹介されている。事業の手を広げすぎずに、持続でき、かつ制御可能なサイズを維持すること(拡大しないということではなく、全体を見ながら成長を試みる)、 未完の仕事の途中で別の仕事に取り掛からず、一つ一つ取り組んでいくことなど。「人生100年時代」と言われるようになって久しいが、私たちが長く穏やかに働き続けるためのヒントが満載だ。これから新年度を迎えるにあたり、自分の働き方を改めて考えるのにおすすめの一冊である。

 

ブックレビュー(4)『夜と霧』ー誰にも奪えない、各人の未来を信じよう

心理学者、ヴィクトール・E・フランクルが、アウシュヴィッツで有名な強制収容所での収容所生活を被収容者の一人として綴った本書は、今なお多くの人に読み継がれる名作である。

 

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『夜と霧 新版』ヴィクトール・E・フランクルみすず書房

 

「読もう、読もう。」と思いながらなかなか読めずにいたのだが、先日ふと思い出し、この機会にと手を伸ばしてみることにした。原著が最初に書かれたのは1947年。過去実際に起こった悲惨な過ちとも言うべき歴史を学ぶことは意義があると思い読み始めたが、読後現代にも通ずる人間の本質やあるべき姿、教訓が多く記されていることに新鮮な驚きを覚えた。

 

本書は大きく分けて3部構成となっており、収容所での事実・経験を、著者の経歴により心理学的立場から解明しようと試みている。強制収容所に収容される第一段階、収容所生活を描いた第二段階、そして収容所を解放されてからの第三段階、である。

 

第一段階

ショック作用や「恩赦妄想」に見舞われる。収容所に収容されることになったにもかかわらず、希望を持ち、事態はそんなに悪くないだろうと楽観的に捉えていたという。

 

第二段階

「感動の消滅段階」へと移行する。内面がやがて死んでいき、冷淡さや無関心さを備えるようになる。自分や仲間が殴られたり罰を受けることに、何も感じなくなる。しかしこれは同時に、理由もなく殴られることもままあった被収容者の心を守る盾にもなっていたという。

 

第三段階

収容所から解放されたという現実が夢のように感じられる。また、突然精神の抑圧から解放されたために、権力や暴力に捉われた心的態度を見せたり、もとの生活に戻り世間と接触した際に不満や失意が引き起こされたりする。

 

 ここでは大まかに被収容者の心的描写を紹介するにとどめたが、食事は十分に摂れないうえ、常に厳しく監視され、体が満足に動かない状態であっても労働を強いられるなど、収容所生活が過酷だったことは、想像に難くない。

 

しかし著者は、こうした厳しい環境であっても、思いやりのある言葉をかけたり、わずかの食料を他人に譲ったりする人たちの存在を認めている。強制収容所において全てを奪うことは可能だが、与えられた環境でいかに振舞うかという、人間の最後の自由は奪えず、実際にそうした例はあったと述べている。どんな環境であっても、その人の心持ち次第で状況の改善は図ることができ、「精神の自由」は常に私たちと共にあると言えるのかもしれない。

 

またさらに、自分の未来に対して希望を持ち続ける大切さを説いた上で、こう述べる。

 

このひとりひとりの人間にそなわっているかけがえのなさは、意識されたとたん、人間が生きるということ、生きつづけるということにたいして担っている責任の重さを、そっくりと、まざまざと気づかせる。自分を待っている仕事や愛する人間にたいする責任を自覚した人間は、生きることから降りられない。まさに、自分が「なぜ」存在するかを知っているので、ほとんどあらゆる「どのように」にも耐えられるのだ。(p. 134)

 

これは、高度に発達した現代に生きる私たちにも大きな学びを与えてくれる言葉だ。学校や、職場や、家庭で、一人ひとりがそれぞれの役割を担っている。しかしながら、時に「生きる意味がわからない」と、その役割を見失ってしまうこともある。私たちは常にかけがえのない存在であり、個々に個性があり、役割があるのだと、著者は教えてくれる。

 

以上のように、この本はもうずっと前に書かれた作品であるが、ここから私たちが学とれることは決して古びていないと思う。ここで紹介した以外にも、興味深くまた考えさせられる内容が数多く書かれている。歴史に詳しくなくても、読みやすい作品となっているので、ぜひ一度読んでいただくことをお勧めしたい。

 

 

 

ブックレビュー(3)『翻訳できない世界のことば』ー言葉と世界のつながりに、心が温かくなる

 

私たちは、コミュニケーション手段の一つとして言葉を用いる。しかし、時に言いようのない気持ちになったことはないだろうか。本書を手に取れば、そんな言葉にするのが難しい感情を表現する、ぴったりの言葉が見つかるかもしれない。

 

本書では、著者エラ・フランシス・サンダースによるあたたかみのあるイラストとともに、世界中の「翻訳できないことば」が紹介されている。

 

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『翻訳できない世界のことば』エラ・フランシス・サンダース(創元社

 

ここでいう「翻訳できない」とはどういうことか。これは、その国独自のニュアンスを持ち、他の国の言葉ではうまく表現できない言葉のことを指している。

 

数多くの言葉の中から、お気に入りのものをいくつか紹介しよう。

 

まずひとつめ。

 

HIRAETH (hiraeth|ヒラエス

帰ることができない場所への郷愁と哀切の気持ち。過去に失った場所や、永遠に存在しない場所に対しても。

 

hiraethは、せつない哀切の気持ちであると同時に、すぎ去った過去のウェールズへの、悲しみと郷愁に美しく彩られた追憶でもあります。(WELSH ウェールズ語 名詞)(p. 28, 29)

 

あの時に戻れたら。あの場所でもう一度やり直せたら。おそらく誰しも一度は感じたことがある、少し切ないあの気持ち。

 

続いてふたつめ。

 

FORELSKET (forelsket|フォレルスケット)

語れないほど幸福な恋におちている。

 

あなたはまだ経験したことがない?それとも、もう何度も味わった?どちらにしても、すてきなことです。そして、forelsketは、なんでも思ったことを率直に伝えることから、一番起こりやすくなります。

(NORWEGIAN ノルウェー語 形容詞)(p. 86, 87)

 

溢れんばかりの幸せな感情が伝わってくる言葉。心の奥底から湧き上がってくるような、満ち足りた気持ちだろうか。

 

そして最後。

 

TSUNDOKU (積ん読|ツンドク)

積ん読。買ってきた本をほかのまだ読んでいない本といっしょに、読まずに積んでおくこと。

 

積読のスケールは、1冊だけのこともあれば、大量の読まない蔵書になっていることもあります。玄関を出るまでに、ページを開いたことのない『大いなる遺産』の本にいつもつまずいてしまう、知的に見えるあなた。その本、日の目を見る価値があると思いますよ。

(JAPANESE 日本語 名詞)(p. 90, 91)

 

言わずと知れた、本好きなら誰もが経験するだろう、積ん読。この言葉と出会った時の作者の驚きを想像すると思わず笑みがこぼれそうになる。

 

ここで紹介しきれなかった素敵な言葉が、本書には沢山詰まっている。著者は、本書が忘れかけていた何かを思い出したり、今まではっきりと表現したことのなかった考えや感情に言葉を与えたりする存在でありたいと願っている。私たちがこれまで気にも留めなかった感情や風景、そして大切な誰かへの気持ちに名前をつけるような表現が見つかったとき、言葉を通じてこれまでよりもいっそう世界とのつながりを感じ、また著者が感じたそのみずみずしい喜びを共有し、心が温かくなるに違いない。

 

 

 

 

ブックレビュー(2)『LIFE SHIFT』ー人生100年時代、私たちはどう生きるか

私たちは長寿化の波の中に生きている。どうやらそれは今後も続いていき、今幼い子供たちは100歳以上生きることが当たり前になるようだ。

 

ロンドン・ビジネススクール教授のリンダ・グラットンとアンドリュー・スコットは著書『LIFE SHIFT』の中で、「100年ライフ」がもたらす新しいビジョンを大胆に描いている。

 

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『LIFE SHIFT』リンダ・グラットン/アンドリュー・スコット東洋経済新報社


 

「オンディーヌの呪い」

 長寿化が進み100年ライフを送るようになると、これまで当たり前とされてきた教育→仕事→引退の順番で進む3ステージの人生から、多様な人生のあり方へと変化するという。どのように人生を組み立てていくか自分自身で考えることが必要となるのだ。ここで著者はある寓話を紹介している。「オンディーヌの呪い」だ。

 

フランスにこんな寓話がある。妖精のオンディーヌは、いびきをかいて眠りこけている夫のバレモンが不貞をはたらいたことに気づいた。怒り狂ったオンディーヌは、夫に呪いをかけた。起きている間は生きていられるが、眠ればその瞬間に死ぬ、という呪いだ。パレモンはこれ以降、目が閉じることを恐れて、一瞬の休みもなしに動き続ける羽目になったという。(p. 21)

 

私たちが従来通りの3ステージ型の人生のまま長寿化の道を辿ることを選択すれば、待っているのはまさしく「オンディーヌの呪い」だと著者は述べる。それは疲れても永遠に働き続け、立ち止まることの出来ない、長寿が災いとなる未来だ。長い老後を過ごすためには、それなりの資金が必要となり、働き続けなければならない。

 

 

マルチステージ化する人生

では、長寿を私たちを苦しめる存在から恩恵へと変えるためには、どうすれば良いのか。それは、生涯に様々なキャリアを経験する、マルチステージの人生を歩むことが鍵だという。長時間働きお金を稼ぐことを重視する時期や、家庭を優先させる時期、社会貢献する時期…キャリアの時々で私たちは転身を重ね、新たなスキルを獲得し、柔軟な選択を行なっていくことで、長きにわたる人生を恩恵に変えることが出来るというのだ。「エクスプローラー」や「インディペンデント・ワーカー」、「ポートフォリオ・ワーカー」など、多様なステージが出現すると紹介されている。

 

著者は、「エイジ(年齢)」と「ステージ」が一致しない、一斉行進の人生が終了する100年ライフにおいては、 政府や企業も柔軟に変わらなければならないと主張する。例えば政府に関して言うと、新たな制度を導入したり、高齢者向けの取り組みから、生涯を通した取り組みと考えることで個人の選択の幅が広がり、実際にそうした対応に乗り出し始めているという。

 

しかし、ここで一つ疑問が浮かぶ。私たちは本当に3ステージ型の人生モデルから脱却し、現状のある程度の合理性を備えたシステム以上の、個々人を支える体制を社会全体で構築出来るのか、という点だ。3ステージで成り立つ人生は、著者が主張するように予測可能性が立てやすい。政府や企業にとっては、公的保障や福利厚生、人事制度などを年齢に応じて個々人へ提供しやすいし、なにより自分自身が3ステージのモデルにおいては将来の見通しを立てやすいという側面もある。また、様々なキャリアを経るということは、転職や退職を経るということでもあり、長く勤めれば勤めるほど給与が上がり労働者への恩恵が大きい多くの日本企業を前に、失うものが多いと感じる人が多数いるのではないか。マルチステージの人生に社会、そして私たちが移行するには大規模な変革が必要だ。本書では、社会が新たなモデルに移行するための課題は描かれているが、具体的な処方箋については私たち自身が考えなければならない。

 

100年ライフは訪れうる。私たちは持続的に人生を歩む必要がある。その為に、多くの変化を経験し、新たなステージに移行していかなければならない。それが本書の主張だ。しかし、その先の行動は私たち読み手に委ねられている。個人が、企業が、政府が、ロールモデルのない人生を歩むこともよしとする、そういう社会づくりに当事者意識をもって取り組んでいかなければならないのではないか。

 

 

 

 

ブックレビュー(1)『決定版 銀行デジタル革命』ー私たちは現金を持たなくなるのか

フィンテック(FinTech)」をご存知だろうか。

Finance(金融)とTechnology(技術)を組み合わせた造語であり、これまでの金融のあり方を多様に変えるのではないかと話題になっている。

 

キャッシュレス化はその一つだ。長きにわたり現金が用いられてきた社会で、現金を使わないキャッシュレス化の動きが加速している。本書では、日本のフィンテック対応や金融業界の現状・課題、仮想通貨、世界の中央銀行の動向等を取り上げながら、通貨のデジタル化について検討している。

 

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『決定版 銀行デジタル革命ー現金消滅で金融はどう変わるか』木内登英東洋経済新報社

 

著者は長年野村総合研究所で経済調査を行いながら、日本銀行政策委員会審議委員を務めた経歴のある木内登英氏だ。

 

著者は、現在日本で3つのデジタル通貨による覇権争いが始まろうとしていると説く。その3つのデジタル通貨とは、①ビットコインなどの仮想通貨、②民間銀行によるMUFGコインなどの独自のデジタル通貨、③中央銀行による独自のデジタル通貨、である。

 

しかしながら、日本における現金志向は根強いという。その理由を著者はこう紹介している。

 

日本で現金志向が強い理由はいくつか考えられます。①個人情報に敏感で、取引履歴を他者に知られることを嫌う人が多く、匿名性が完全に担保され、利用者の情報がまったく残らない現金決済を好む傾向がある、②低金利が長期化し、銀行預金の魅力が低下した、③1990年代末の銀行不安を受け、資産を銀行預金から現金へシフトさせる人が増え、その後も現金を手元に置く傾向が続いた、④治安がよく現金を所持することの不安が小さい、⑤日本銀行が現金流通に万全を期しているため、現金が不足する事態が生じにくい、⑥日本銀行の取り組みにより紙幣のクリーン度が高い、⑦ATMの数が多く故障が少ない、⑧税回避の目的で現金が保有される場合があるーーなどです。(p. 109)

 

現金は非常に合理的で堅牢な金融システムのもと、市中に流通し日々利用されている印象を受ける。

 

その他にも、モバイル決済について、若年男性以外はモバイル決済が苦手であるという日本人のITリテラシーの低さや、セキュリティへの不安がその普及の妨げとなっていることなどが紹介されている。

 

キャッシュレス社会の到来は確実に近づいてきている。しかし実現にはまだ障壁も多く、かなりの時間を要するだろう。キャッシュレス化の主導的役割は誰が担うべきなのか、そして通貨のデジタル化はどのような形で実現していくのか。本書はそうした問いを考える一助となってくれる。