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ブックレビュー(2)『LIFE SHIFT』ー人生100年時代、私たちはどう生きるか

私たちは長寿化の波の中に生きている。どうやらそれは今後も続いていき、今幼い子供たちは100歳以上生きることが当たり前になるようだ。

 

ロンドン・ビジネススクール教授のリンダ・グラットンとアンドリュー・スコットは著書『LIFE SHIFT』の中で、「100年ライフ」がもたらす新しいビジョンを大胆に描いている。

 

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『LIFE SHIFT』リンダ・グラットン/アンドリュー・スコット東洋経済新報社


 

「オンディーヌの呪い」

 長寿化が進み100年ライフを送るようになると、これまで当たり前とされてきた教育→仕事→引退の順番で進む3ステージの人生から、多様な人生のあり方へと変化するという。どのように人生を組み立てていくか自分自身で考えることが必要となるのだ。ここで著者はある寓話を紹介している。「オンディーヌの呪い」だ。

 

フランスにこんな寓話がある。妖精のオンディーヌは、いびきをかいて眠りこけている夫のバレモンが不貞をはたらいたことに気づいた。怒り狂ったオンディーヌは、夫に呪いをかけた。起きている間は生きていられるが、眠ればその瞬間に死ぬ、という呪いだ。パレモンはこれ以降、目が閉じることを恐れて、一瞬の休みもなしに動き続ける羽目になったという。(p. 21)

 

私たちが従来通りの3ステージ型の人生のまま長寿化の道を辿ることを選択すれば、待っているのはまさしく「オンディーヌの呪い」だと著者は述べる。それは疲れても永遠に働き続け、立ち止まることの出来ない、長寿が災いとなる未来だ。長い老後を過ごすためには、それなりの資金が必要となり、働き続けなければならない。

 

 

マルチステージ化する人生

では、長寿を私たちを苦しめる存在から恩恵へと変えるためには、どうすれば良いのか。それは、生涯に様々なキャリアを経験する、マルチステージの人生を歩むことが鍵だという。長時間働きお金を稼ぐことを重視する時期や、家庭を優先させる時期、社会貢献する時期…キャリアの時々で私たちは転身を重ね、新たなスキルを獲得し、柔軟な選択を行なっていくことで、長きにわたる人生を恩恵に変えることが出来るというのだ。「エクスプローラー」や「インディペンデント・ワーカー」、「ポートフォリオ・ワーカー」など、多様なステージが出現すると紹介されている。

 

著者は、「エイジ(年齢)」と「ステージ」が一致しない、一斉行進の人生が終了する100年ライフにおいては、 政府や企業も柔軟に変わらなければならないと主張する。例えば政府に関して言うと、新たな制度を導入したり、高齢者向けの取り組みから、生涯を通した取り組みと考えることで個人の選択の幅が広がり、実際にそうした対応に乗り出し始めているという。

 

しかし、ここで一つ疑問が浮かぶ。私たちは本当に3ステージ型の人生モデルから脱却し、現状のある程度の合理性を備えたシステム以上の、個々人を支える体制を社会全体で構築出来るのか、という点だ。3ステージで成り立つ人生は、著者が主張するように予測可能性が立てやすい。政府や企業にとっては、公的保障や福利厚生、人事制度などを年齢に応じて個々人へ提供しやすいし、なにより自分自身が3ステージのモデルにおいては将来の見通しを立てやすいという側面もある。また、様々なキャリアを経るということは、転職や退職を経るということでもあり、長く勤めれば勤めるほど給与が上がり労働者への恩恵が大きい多くの日本企業を前に、失うものが多いと感じる人が多数いるのではないか。マルチステージの人生に社会、そして私たちが移行するには大規模な変革が必要だ。本書では、社会が新たなモデルに移行するための課題は描かれているが、具体的な処方箋については私たち自身が考えなければならない。

 

100年ライフは訪れうる。私たちは持続的に人生を歩む必要がある。その為に、多くの変化を経験し、新たなステージに移行していかなければならない。それが本書の主張だ。しかし、その先の行動は私たち読み手に委ねられている。個人が、企業が、政府が、ロールモデルのない人生を歩むこともよしとする、そういう社会づくりに当事者意識をもって取り組んでいかなければならないのではないか。