ポンコツ金融ウーマンの本棚。

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ブックレビュー(1)『決定版 銀行デジタル革命』ー私たちは現金を持たなくなるのか

フィンテック(FinTech)」をご存知だろうか。

Finance(金融)とTechnology(技術)を組み合わせた造語であり、これまでの金融のあり方を多様に変えるのではないかと話題になっている。

 

キャッシュレス化はその一つだ。長きにわたり現金が用いられてきた社会で、現金を使わないキャッシュレス化の動きが加速している。本書では、日本のフィンテック対応や金融業界の現状・課題、仮想通貨、世界の中央銀行の動向等を取り上げながら、通貨のデジタル化について検討している。

 

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『決定版 銀行デジタル革命ー現金消滅で金融はどう変わるか』木内登英東洋経済新報社

 

著者は長年野村総合研究所で経済調査を行いながら、日本銀行政策委員会審議委員を務めた経歴のある木内登英氏だ。

 

著者は、現在日本で3つのデジタル通貨による覇権争いが始まろうとしていると説く。その3つのデジタル通貨とは、①ビットコインなどの仮想通貨、②民間銀行によるMUFGコインなどの独自のデジタル通貨、③中央銀行による独自のデジタル通貨、である。

 

しかしながら、日本における現金志向は根強いという。その理由を著者はこう紹介している。

 

日本で現金志向が強い理由はいくつか考えられます。①個人情報に敏感で、取引履歴を他者に知られることを嫌う人が多く、匿名性が完全に担保され、利用者の情報がまったく残らない現金決済を好む傾向がある、②低金利が長期化し、銀行預金の魅力が低下した、③1990年代末の銀行不安を受け、資産を銀行預金から現金へシフトさせる人が増え、その後も現金を手元に置く傾向が続いた、④治安がよく現金を所持することの不安が小さい、⑤日本銀行が現金流通に万全を期しているため、現金が不足する事態が生じにくい、⑥日本銀行の取り組みにより紙幣のクリーン度が高い、⑦ATMの数が多く故障が少ない、⑧税回避の目的で現金が保有される場合があるーーなどです。(p. 109)

 

現金は非常に合理的で堅牢な金融システムのもと、市中に流通し日々利用されている印象を受ける。

 

その他にも、モバイル決済について、若年男性以外はモバイル決済が苦手であるという日本人のITリテラシーの低さや、セキュリティへの不安がその普及の妨げとなっていることなどが紹介されている。

 

キャッシュレス社会の到来は確実に近づいてきている。しかし実現にはまだ障壁も多く、かなりの時間を要するだろう。キャッシュレス化の主導的役割は誰が担うべきなのか、そして通貨のデジタル化はどのような形で実現していくのか。本書はそうした問いを考える一助となってくれる。